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岳南朝日新聞9月掲載されました

  • 母力
  • 9月28日
  • 読了時間: 4分

9月は久野千尋

【育てたんじゃなくて、“一緒に生きてきただけ”】をテーマに書きました。


以下より全文お読みいただけますので、ぜひ読んでみてください。

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育てたんじゃなくて、“一緒に生きてきただけ”


育児書のとおりにいかなくて、焦った日々

気づけば、子は5歳になった。もう5年も一緒に生きてきたことになる。けれど私は、この5年間を「子育て」とはあまり呼びたくない。それよりも、“一緒に生きてきただけ”。今はそんなふうに思っている。

2020年、コロナで緊急事態宣言が出たころ、私は第一子を出産した。最初は「子育てを頑張ろう」と意気込んでいた。人との接触が難しかったから、とにかくスマホで検索し、育児書を読み、正解を探し続けていた。

「発達のためには親の関わり方が大事」「この時期にはこういう遊びが効果的」。そんな言葉に素直に従っていた。私は真面目な性格なので、「ちゃんとしなきゃ」という気持ちが強かったのだと思う。できる限り“良いお母さん”でいたかったし、子どものためにベストを尽くしたかった。

でも現実は、思うようにはいかなかった。育児書通りにやっても、うまくいかないことのほうが多かったと思う。周りの子と比べては焦り、「私の関わり方が悪いのかな」と落ち込むこともよくあった。

同じくらいの親子連れが集まる児童館も、正直苦手だった。周りのママたちが、まだ言葉も通じない子どもに自然に話しかけている。みんな楽しそうに見えたけれど、私にはその様子がプレッシャーにさえ思えて、「私って育児に向いてないのかもしれない」と感じていた。どこか、自分だけが浮いているような気がしていた。



変わったのは、わたしの心

それでも、時間は過ぎていく。しんどい日も、何も考えられない日も、日々は淡々と流れていった。そんなある日、ふと気づいた。子は気付いたら歩き始め、スプーンとフォークを使いこなし、促さずとも言葉で自分の主張をするようになっている…。

——この子、勝手に育っているじゃん。

私が特別なことをしたわけではない。けれど、子は子の力で、しっかりと成長していた。

読みあさってきた育児書の多くには、結局こう書いてあった。「お母さんがハッピーでいることが、いちばん大事」。だったら私は、そこを一番にしようと思った。私だけが我慢して頑張るのではなく、子どもと私、どちらも心地よくいられることを大切にしたい、と。

そう思えてからは、子育てがぐんと楽になった。とにかく、一緒に生きていくことが楽しい。

子どもは毎日、私の想像を超える面白いことばかりしてくる。たとえば突然踊り出したり、よくわからない言葉を発明したり。本当に毎日が予測不可能で、でもそれが楽しい。言葉も通じるようになってきて、やりとりもどんどん面白くなっていった。

私の役割は、自分の力で成長していく子どもをただそばで見守って、面白がること。それだけで、もう十分なのかもしれない——。

最近は、どんどん成長していく子を見て「もうこれ以上成長しないでほしいな……」とさえ思う。矛盾しているけれど、それも本音だ。



ママとして、わたしとして

そんなふうに、少し肩の力が抜けてきた頃。私は「ふじのみやハハラッチ」でライター活動を始めた。子育て中のママが記者となり、富士宮市の情報を発信していく地域のWEBメディアだ。

子どもが生まれる前から、もちろん「私」という存在はずっとあった。ずっと働いてきたし、やりがいも感じていた。けれど育児の中では、「ママ」という役割が濃くなりすぎて、自分の輪郭がぼやけてしまうような感覚もあった。

だから、ライターとして取材に出かけたり、文章を書いたりする時間は、「ママという視点を持った私」として社会と関われる、かけがえのない機会になった。

子どもと一緒に過ごす日々はもちろん楽しい。でもそれとは別に、“私自身の新しい世界”を少しずつ広げていけたことが、自分を救ってくれたように思う。



「共に生きる」という子育てのかたち

子どもを見ていると、つくづく思う。親子とはいえ、私とはまったく違う人間だ。 考え方も、感じ方も違う。これからそれぞれの世界で、別々の経験をして、きっと価値観も違っていくだろう。

だからこそ、「育てる」というより「共に生きる」という感覚のほうがしっくりきている。

この日々も、きっと永遠ではない。この子が私の言うことを聞くかどうかではなく、 一緒に生きていけるこの時間を、お互いどう楽しみながら過ごしていくか。そのことを考え、思いきり味わっていきたいと思う。

「育てる」ではなく、「一緒に生きていく」「ともに育っていく」。 それが、この5年間で私がたどり着いた、“子育て”のかたちだ。



文責 久野千尋

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